活動内容

①臨床活動

IGPCは、西アフリカのシエラレオネ共和国南部州ボー地区ルグブチーフダムに拠点を置くシエラトロピカル社(Sierra Tropical Ltd., STL)と提携し、地域の周産期医療とSTL従業員のためのクリニックを2021年に開設しました。2022年5月より分娩の受け入れを開始し、緊急時の対応もできるよう施設の整備やナショナルスタッフの教育を行っています。これには小手術や帝王切開も含まれます。地域の医療施設との役割分担を明確にし、当クリニックでは現地医療機関で対応が困難なハイリスク妊産婦の管理と緊急時の搬送を受け入れています。

日々の外来には、マラリアや腸チフスといった一般感染症やブルーリ潰瘍などの顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)の患者対応が多く、最近では小児の受診も目立ってきました。また、多産である地域性から、多くの妊婦が健診に訪れます。妊婦健診では、超音波を用いた診察も行い、胎児の正常な発育を確認するだけでなく、異常の早期発見とその後のフォローを行っています。
地域からの搬送受け入れも行っているため、常に緊急事態に対応できるよう輸血管理や献血のシステムも構築しています。

シエラレオネでは、医師数が少なく、現地の準医師(Community Health Officer, CHO)、助産師、看護師、助手らと共にIGPCの医師、助産師が協働しています。

共に理解し、学んでいく姿勢を大切にし、健康指標、とりわけ周産期における統計データが非常に劣悪であるシエラレオネにおいて母と子の命を少しでも救えるよう、我々は全力で取り組んでいます。

②コミュニティアウトリーチ

クリニックでハイリスク妊産婦を待っているだけでは、全ての助けを必要としている地域の妊産婦は救えません。そのため、クリニック内での妊婦健診業務だけでなく、近隣地区へ訪問型の妊婦健診を行っています。
アウトリーチ活動の目的は、近隣地区におけるハイリスク妊婦の早期発見とその後の継続ケアに繋げることであり、母子の命の安全を確保することです。また、地域の医療施設との顔の見える関係強化にもつながっており、地域でより高度な医療を必要とする症例が発生した場合に、当院へスムーズに搬送できるような連携システムを構築しています。

この活動は、活動拠点であるルグブチーフダム内47村落を約3ヶ月かけて全て訪問しています。週2回の訪問で、1日1~2カ村を回り、10~20名の妊婦健診を行います。
また、この機会を有効に活用し、ナショナルスタッフが住民に健康教育を行い、衛生観念や栄養指導、妊娠中の異常兆候、マラリア感染の症状などについて指導しています。妊婦健診では、携帯型エコーを活用し、異常の早期発見に努める他、健診結果を地域の医療者と共有しています。
アウトリーチ活動では、地域の看護師や伝統産婆(Traditional Birth Attendant, TBA)と協力しながら健診を実施するほか、訪問日の告知や当日の会場設営にあたり、村長やPublic Health Unit(PHU)のスタッフ、Community Health Worker(CHW)等の協力を得ながら実施しています。

③ナショナルスタッフ教育

IGPCの活動は2021年に始まったばかりです。クリニック内では、外来対応や処置、分娩対応、手術対応、新生児ケア、搬送など幅広い業務をタイムリーに行うことが求められます。日本とは異なる環境かつ教育背景、文化の中で共に活動していくにあたり、日本から来た我々も現地の状況やアフリカ特有の病気について学んでいます。同時に、現地の医療者にも、効果的かつ正確に医療やケアが提供できるようにナショナルスタッフ教育にも力を注いでいます。
シエラレオネ保健省やWHO、MSFなどのガイドラインを活用しながら分かりやすい研修を計画し、TOT(Training of Trainers, 指導者養成研修)やOJT(On the Job Training, 実地研修)を行っています。
ナショナルスタッフの学習意欲や向上心は高く、首都から遠く離れた僻地での業務を継続するよいモチベーションにも繋がっています。

IGPCは、現地の健康改善のほんの一部をサポートしています。継続して現地の状況を改善させていくのは、やはり現地の方の力なのです。いつかIGPCがシエラレオネを去っても現地の力で健康を維持発展させていけるような環境を築いていけるよう関わっています。

④AMED臨床試験

IGPCのビジョンのひとつである「低コスト・高品質な医療を実現するイノベーション」の一環として2023年1月からボー地区のボー政府病院にて研究活動を開始しています。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、実施しています。

本研究は、アトムメディカル株式会社と共同開発している簡易保育器、携帯型呼吸器による新生児予後の改善効果の検証を目的としています。対象は主に早産児を想定した低出生体重児としています。シエラレオネにおける新生児死亡率は31/1,000 live births(World Bank, 2021)であり、世界平均が18/1,000 live births(UNICEF, 2021)、日本が1/1,000 live births(World Bank, 2021)であることを踏まえると、非常に高い水準にあることが分かります。新生児死亡の改善には早産児へのケアが必要不可欠であり、その中で体温管理、呼吸管理に重点を置くことで予後改善を期待しています。前段階として測定機器の使用方法や研究の流れについての教育をナショナルスタッフに行いました。研究対象となる児の酸素飽和度と体温の持続的モニタリング、及び予後のデータを収集し、介入前後のデータと比較することで、機器の効果を検証する予定です。

⑤勉強会

日本などの先進国では高度な医療へ簡単にアクセスできるのに対し、発展途上国では生きるだけで精一杯である現実があります。しかし、その現実は多くの人々にとって遠い国のことであり、想像しづらいかもしれません。また、国際援助に参加している人々は高い理想に動機付けられた一部の特別な存在であるように思われてしまい、身近に感じにくいことがあります。
IGPCでは定期的に学習会を開催し、国際支援や母子保健、国際医療活動などについて情報の発信と学びを深めています。また、活動地域とも繋ぎ、現場で働くIGPC医師、看護師・助産師との交流も行っています。
「ともに学び続ける、伝え続ける」はIGPCのビジョンです。